最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)362号 判決 1965年12月17日
上告人
山中善之助
右訴訟代理人
堀部進
伊藤宏行
被上告人
笠井亥三夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人堀部進、同伊藤宏行の上告理由について。
原判決(第一審判決引用)が確定した事実によると、被上告人は昭和三一年八月初めごろ上告人宅において上告人ほか二名と相会して花札賭博をなし、その結果、被上告人が他の三名に対し合計二八万円の負越しとなり、上告人から要求されるままに上告人に対して二八万円の金銭借用証書を差し入れたところ、その後、上告人は訴外宮本旭彦をして被上告人に対ししきりにこれが支払を催促するので、被上告人は同月二三日ごろ他から金融を得て内金八万円を支払い、残金二〇万円となつたところ、上告人および宮本はなおもその支払を請求し、さらに右残金を担保するため被上告人所有の本件不動産に抵当権の設定を強要したので、被上告人もついに同年一〇月五日右二〇万円について本件抵当権の設定を承諾し、その旨の登記手続を経由したというのである。
按ずるに、このような事実関係のもとにおいては、被上告人が右抵当権設定登記の抹消を求めることは、一見民法七〇八条の適用を受けて許されないようであるが、他面、上告人が右抵当権を実行しようとすれば、被上告人において賭博行為が民法九〇条に違反することを理由としてその行為の無効、したがつて被担保債権の不存在を主張し、その実行を阻止できるものというべきであり、被担保債権の存在しない抵当権の存続は法律上許されないのであるから、このような場合には、結局、民法七〇八条の適用はなく、被上告人において右抵当権設定登記の抹消を上告人に対して請求できるものと解するのが相当である。これと結論を同じくする原判示は正当であり、原判決には所論民法九〇条ないし七〇八条の解釈適用を誤つた違法はない。その他の論旨も、原審が適法に確定した事実関係を争うにすぎないから、採用するを得ない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)